札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)5067号 判決 1983年11月25日
原告
村井和子
ほか一名
被告
荒澤喜三郎
主文
被告は原告らそれぞれに対し、各金一三二万〇〇七六円及び各内金一一七万〇〇七六円に対する昭和五七年五月三日から、各内金一五万円に対する本判決確定の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。
この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告らに対し、それぞれ金一二〇六万八四三二円及び右各金員に対する昭和五七年五月三日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
昭和五七年四月二八日午後二時四〇分ころ、北海道余市郡仁木町東町一三丁目七番地先の交差点(以下本件交差点という。)において、被告の運転する普通貨物自動車(札四四ほ四七九四、以下被告車という)と訴外村井清(以下訴外清という)の運転する自動二輪車(以下村井車という)が出合い頭に衝突し、訴外清は、右事故により頭部挫傷等の傷害を受け、同年五月三日、右傷害のため死亡した(以下本件事故という)。
2 被告の責任
被告は、被告車を運転して交通整理の行われていない本件交差点を、余市町方面から倶知安町方面に向つて直進しようとしたのであるが、右交差点に進入するにあたつては、同交差点の右角に小屋が立つていて右方の見通しが困難であつたのであるから、徐行して右方の安全を確認すべき注意義務があつたのにこれを怠り、右方道路の安全を確認しないまま漫然と時速約四〇キロメートルの速度で同交差点に進入した過失により、右方道路から同交差点に進入してきた村井車に被告車を衝突させ、本件事故を惹起したものである(民法七〇九条)。
3 損害
(一) 葬儀費用 金八〇万円
(二) 逸失利益 金四〇一七万四九六一円
訴外清は、本件事故当時四九歳の男子であり、仁木町において農業に従事していたものである。しかるところ同町においては昭和五五年、同五六年度において風水害のため多大な被害を出しており、農業所得による逸失利益の算定は困難であるので、賃金センサス(昭和五六年度)を用いて算定するのが合理的である。
(1) 年収 四五五万三九〇〇円
(2) 生活費割合 三〇パーセント
(3) 係数 一八年間のホフマン係数一二・六〇三
(4) 算式 4553900×(1-0.3)×12.603=40174961
(三) 訴外清が死亡するまでの治療費 金二六万六八五九円
(四) 慰藉料 金一五〇〇万円
(五) 過失相殺
右(一)ないし(四)の合計は金五六二四万一八二〇円となるところ、訴外清にも二五パーセントの過失があるものと考えられるから、過失相殺による減額後の訴外清の損害額は金四二一八万一三六五円となる。
4 相続
訴外清の相続人は、妻の原告村井和子と子である原告村井康男の二人であり、原告らは訴外清の損害賠償請求権を二分の一宛相続した。
5 弁護士費用 金二〇〇万円
原告らは本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任し、原告ら各一〇〇万円宛支払うことを約した。
6 損益相殺
原告らは、本件事故に関し金二〇〇四万四五〇〇円の支払を受け、これを二分の一宛原告らの損害賠償請求権に充当した。
7 結論
よつて原告らは被告に対し、各金一二〇六万八四三二円(3、5の合計額から6の金額を控除した残額の二分の一の額)とこれに対する訴外清の死亡の日である昭和五七年五月三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2については、被告に原告主張の過失に基づく損害賠償義務が存することは認める。
3 同3のうち、
(一)の葬儀費用の額は争う。金七〇万円が相当である。
(二)の算定方法は争う。賃金センサスによるのは相当でなく、実際の農業所得をもとに算定すべきである。
(三)の治療費は認める。
(四)の慰藉料額は争う。一〇〇〇万円が相当である。
4 同4の事実は認める。
5 同5のうち、原告らが本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任した事実は認める。
6 同6の事実は認める。
三 抗弁
1 過失相殺
事件事故は、交通整理の行われていない幅員ほぼ同じ程度の道路が交わる交差点における出合い頭の事故であり、訴外清は、無免許で村井車を運転していたものである。訴外清の過失は大きく七五パーセント程度の過失相殺を行うべきである。
2 弁済
被告らは、訴外清の治療費金二六万六八五九円について自賠責保険(傷害分)より支払を受けている。
四 抗弁に対する認否
抗弁1の主張は争う。訴外清が無免許であつたことは認めるが、これは本件事故の原因とはなつていない。村井車が単車であることを考えれば二五パーセント程度の過失相殺で十分である。
第三証拠
証拠関係は本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、同2の主張については、被告に原告主張の過失に基づく損害賠償義務が存することは被告の自認するところである。
二 被告は、訴外清にも本件事故につき重大な過失があつた旨主張するので、まずこの点につき判断するに、いずれも成立に争いのない甲第九号証、第一〇号証の一ないし一一、第一一ないし第一三号証、第一五、第一六号証、第二四号証によれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
1 本件交差点は、被告が進行していた幅員約六・三メートルの道路と訴外清が進行していた幅員約四・五メートルの道路が十字型に交差する交差点であり、右交差点付近は舗装がされていない。同交差点付近は、非市街地であり、交通規制は何らなく、同交差点は信号機等による交通整理も行われていない。被告進行道路からの見通しは、交差道路左方は良いものの、交差道路右方については、交差点右角に小屋があつたり、雑木が植えてあつたりしているため悪い(したがつて、訴外清の進行道路からみれば、交差点の左方の見通しは悪い。)。
2 被告は、本件事故直前、被告車を運転して余市町方向から本件交差点に向つて時速約三〇キロメートルの速度(非舗装道路であるため減速していた。)で進行し、本件交差点の手前一四メートルの地点で交差点の存在に気付いたが、交通閑散に気を許し、交差道路を進行してくる車両等はないものと考え、そのままの速度で本件交差点に接近したところ、交差点中央付近から約四・五メートルの手前で、交差道路を右方から左方に向つて進行してくる村井車を発見し、急制動の措置をとつたがまにあわず、被告車の右前方側面部を村井車の前部に衝突させた。
3 村井車は、総排気量九〇CCの自動二輪車であり、訴外清は、右村井車を運転して国道五号線方面から本件交差点に向つて進行してき、同交差点を直進しようとして、同交差点の中央付近で村井車の前部を被告車の右前方側面部に衝突させた。訴外清は、その衝撃により衝突地点から約五・八メートル離れた道路上に投げ出され、頭部を強打し、急性硬膜外血腫により事故の五日後死亡した。
訴外清は、何ら自動車運転の免許は有しておらず、また、本件事故時においてヘルメツトを着用していなかつた。
右認定の事実にしたがつて判断すると、本件交差点においては、被告、訴外清のいずれも、各進行道路から交差道路の見通しは悪く、したがつて、双方とも交差点に進入するにあたつては徐行等をして交差点の安全を確認すべきであつたのにこれを怠つて漫然と交差点に進入しようとした過失があることは明らかであり(訴外清は死亡しているため、同人が事故前どのような態様で本件交差点に進入したかについては必ずしも判然としないが、本件事故の態様からみて同人が徐行等の措置をとつたとは到底認められない。)、その過失割合については、訴外清は左方車である被告車を優先させるべき義務が存すること、村井車は単車であること、訴外清はヘルメツトを着用しておらず、これが死亡に至つた一因と考える余地があることなどに照らすと、被告の過失割合五〇パーセント、訴外清の過失割合五〇パーセントと解するのが相当である。なお、訴外清が無免許運転であつたことは前記認定のとおりであるが、本件事故が出合い頭の事故であることからすれば、無免許運転と事故の発生との因果関係は必ずしも肯認できず、無免許運転の事実は後記慰藉料の項で斟酌すれば足りるものと思料する。
以上によれば、被告は、後記認定の損害額の五〇パーセントを賠償すれば足りるものというべきである。
三 そこで本件事故による損害について検討する。
1 葬儀費用
本件事故によつて訴外清が死亡したことは当事者間に争いがなく、本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故の損害としての葬儀費用は金八〇万円をもつて相当と解される。
2 逸失利益
前掲甲第九号証、成立に争いのない甲第二五号証、第二六号証の一、二、乙第四号証、原告村井和子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三、原告村井和子本人尋問の結果によれば、訴外清は、昭和八年四月二四日生の健康な男子であり、本件事故当時、仁木町から余市町にかけて約三六五アールの農地を所有し、妻である原告村井和子とともに専業農家として、米、野菜、果実等を生産していたこと、昭和五六年度においては、仁木町地方で同年八月二一日から同月二三日にかけての風水害のため、農業収量にかなりの打撃を受けたが、それでも訴外清は、金六九六万五四〇八円相当の米、野菜、果実等を市場に出荷したこと、訴外清の昭和五六年度の農業支出(肥料、農業、包装資材、種苗、燃料等)は金一八九万三六七六円であること、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右事実に基づき訴外清の収入につき判断するに、一般に家族とともに農業を営む者の収入は、農業粗収入から肥料、農薬、種苗等の農業支出と家族労働費分を控除した残額をもつてその収入と解され、本件においても、妻である原告村井和子の寄与分は少なからざるものがあつたと解されるのであるが、他面、農家の場合には市場に出荷したもの以外に、米、野菜等は自家消費分があるのが一般であることからすれば、市場出荷分のみを農業粗収入とみることはできないといわねばならない。そうして本件においては、訴外清の農業粗収入全体がどの位であつたかは本件全証拠によるも必ずしも判然としないが、昭和五六年度において風水害によるかなりの減収があつたにもかかわらず、金六九六万五四〇八円の農業生産物を市場に出荷していること、このための農業支出が金一八九万三六七六円であること、市場出荷分以外にも自家消費分があつたであろうことなどに照らせば、平年において訴外清は、少なくとも右金六九六万五四〇八円の六〇パーセント程度の実収入を得ていたのであろうと推認できる。したがつて訴外清は、年間金四一七万九二四五円の収入があつたものと解される。
そうして、前記事実に照らせば、訴外清は、本件事故により死亡しなければ、六七歳に達するまでの一八年間、右程度の収入が得られたものと解されるから、本人の生活費として三五パーセントを控除し、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算出すると、次の算式により訴外清の逸失利益は金三四二三万六一六六円となる。
4,179,245×(1-0.35)×12.603=34,236,166
3 慰藉料
本件にあらわれた諸般の事情、とりわけ訴外清は無免許で自動二輪車を運転中、自己の過失もあつて本件事故に至つたことなどを考慮すると、訴外清の死亡による慰藉料は金一〇〇〇万円をもつて相当と解される。
4 治療費
訴外清が死亡するまでに要した治療費が金二六万六八五九円であることは当事者間に争いがない。
以上、訴外清の本件事故による損害は合計金四五三〇万三〇二五円である。
四 しかるところ、前記二で判断したとおり過失相殺により被告が負担すべきところは損害額の五〇パーセントと解すべきであるから、被告は前項の損害額金四五三〇万三〇二五円の五割である金二二六五万一五一二円を賠償すべきである。
五 請求原因4の事実は当事者間に争いがない。したがつて原告らは訴外清の損害賠償請求権を相続により二分の一宛承継取得したものと認められる。
六 原告らが本件事故に関し金二〇〇四万四五〇〇円の支払を受けたことは原告らの自認するところである。
また被告は、訴外清の治療費金二六万六八五九円は自賠責保険より支払われていると主張するところ、原告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
そうすると原告らは、本件事故により合計金二〇三一万一三五九円の支払を受けていることになり、これを二分の一宛原告らの損害賠償請求権に充当して計算すると、原告らの損害賠償請求権残額はそれぞれ、金一一七万〇〇七六円となる。
七 原告らが本件訴訟の遂行を原告ら代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、本件訴訟の難易、訴額、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は、それぞれ金一五万円(合計金三〇万円)と認めるのが相当である。
八 以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、それぞれ金一三二万〇〇七六円と各内金一一七万〇〇七六円(弁護士費用を控除した金員)に対する昭和五七年五月三日(訴外清の死亡の日)から、内金一五万円(弁護士費用分)に対する本判決確定の翌日から、それぞれ完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大橋弘)